2024.02.28
取り組み事例
Logi REC(ロジリク) ロジHR株式会社
【連載】第20弾:迫る2024年問題…物流人材の不足を「ビッグデータ」と「現場への伴走支援」で解決するロジHR~物流インフラプラットフォームNews~
こんにちは! シーアールイー(以下CRE)マーケティンググループです。
今回のインタビュー第20弾は、物流アセットに強みを持つCREグループと、採用ソリューション事業を展開するツナググループの協業によって生まれた「ロジHR株式会社」にフォーカスします。
物流業界の「2024年問題」が目前に迫る中、物流企業各社にとって人材の確保や定着化はいよいよ待ったなしの経営課題となっています。
そんな中、「物流業界」と「採用・人事」に特化し、物流企業を対象にコンサルティングサービスを提供しているのがロジHRです。
物流業界の特性を知り尽くし、採用・人事における課題解決の豊富な実績を有しているほか、2023年7月には、企業が求人情報を“完全無料掲載”できる「Logi REC(ロジリク)」サービスをリリースし、業界内に大きな話題を呼んでいます。
そのロジHRとは、他のコンサルティング会社に比べてどのような強みと特徴を持っているのでしょうか。また、採用・人事の課題解決においてどんなことを重視しているのでしょうか。代表取締役社長の玉井生氏に聞きました。
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<今回お話をお聞きした方>
玉井 生 氏
株式会社ツナググループ・ホールディングス 経営戦略室 室長 兼 R&D室 室長
ロジHR株式会社 代表取締役社長
(プロフィール)
1980年11月生まれ、神奈川県出身。グロービス経営大学大学院卒(MBA)。
人材業界で約20年の経験。求人広告の営業から採用コンサルタント・RPOのプロジェクトマネジメント・派遣会社での役員経験など幅広い業務経験。各業界・産業でのトップ企業での採用・人事コンサルの実績あり。2022年10月より現職。
<目次>
- 「物流アセット」×「採用ノウハウ」のジョイントベンチャー
- 「倉庫×派遣」から「物流×人的資源活用」へ事業を転換
- コンサルティングの強みは「ビッグデータ」と「現場主義」
- 年々減少していた従業員数が30年ぶりの純増に!
- 完全無料の求人サイト「ロジリク」
- 本質的な課題は「人材の定着化」と「生産性の向上」
「物流アセット」×「採用ノウハウ」のジョイントベンチャー
―― 初めに、ツナググループ・ホールディングスのご紹介をお願いします。
玉井 ーツナググループ・ホールディングスは「2030年労働受給GAP解消」を目指し、採用・人事領域における課題解決を支援するソリューションカンパニーです。グループ内に6つの企業を持ち、採用コンサルティングや採用業務支援、採用代行などの事業を展開しています。
主なクライアントは従業員数1000名以上の大手企業で、2007年の創業以来、約15万事業所の採用支援や、アルバイト・パートタイマーで働く年間約300万人の就労支援に携わっています。
また、当社の大きな特徴として、大手企業をクライアントに持っていることから、求人から応募、選考、採用に至るまでの豊富なデータを保有しています。その定量的・客観的なエビデンスにもとづくソリューションを提供している点に当社の強みがあります。
玉井 ー 2018年~2019年当時の労働市場は、東京オリンピック・パラリンピックの開催を控え、日本全国で業種を問わず人手不足の悲鳴があがっており、有効求人倍率も1.6倍を超える高水準が続いていました。その状況下で、当社のもとにも物流企業から人材確保に関する多くの相談が寄せられていました。
その同じ時期に、CREグループから「物流業界における人材確保の課題を一緒に解決できないか」と協業のご相談をいただきました。お話を伺う中で、当社としてもこれまで接点の少なかった物流業界を支援することで、当社が蓄積してきた採用・人事に関するノウハウやビジネスモデルを物流業界に展開したいとの思いが強くなりました。
そのような経緯で、CREグループの強みである「物流倉庫のアセット」と、ツナググループの強みである「派遣人材の採用ノウハウ」を組み合わせたジョイントベンチャー「倉庫人材派遣センター」を2019年7月に設立しました。
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「倉庫×派遣」から「物流×人的資源活用」へ事業を転換
―― その「倉庫人材派遣センター」ですが、当初はどのようなサービスを展開していたのでしょうか。
玉井 ー ツナググループでは、大手コンビニエンスチェーンを対象に店舗スタッフの派遣業務を一元化した「派遣センター」というスキームを持っています。具体的には、全国約2万店の各店舗が個別に行っていた派遣スタッフの採用業務を「派遣センター」に集約し、派遣会社との契約も一元化。さらに入札のシステムを入れることで、採用業務の効率化とコストダウン、派遣スタッフの品質の均質化を図るというものです。このスキームを、物流倉庫に派遣するスタッフの確保にも展開しようと考えました。
ただ、結論からいうと、思うような事業展開が難しかったですね。
――難しかったという、その理由は何ですか?
玉井 ー 理由はいくつかあるのですが、端的にいうと、コンビニチェーンを対象に構築した「派遣センター」のスキームが、物流業界の特性にマッチしていなかったということです。
コンビニと比較した物流業界の特性として、第一に拠点が少ないこと。コンビニのように2万拠点もの規模を有する企業はありません。ゆえに、採用業務を一元化するメリットが小さかったことが挙げられます。
第二に、業態や規模が多種多様であること。倉庫の運用管理に特化している会社もあれば、配送機能を担う会社もある。また、配送と一言でいっても長距離・中距離・ラストワンマイルと、業態もさまざまです。これだけ多様なケースがあるので、コンビニを想定した一律の採用システムを適用するには無理があると気づきました。
そういった物流業界の特性が見えてきたことに加え、2020年に入ってからは新型コロナウイルスの影響で事業がストップしてしまいました。そこで、事業ドメインをいま一度見直した結果、既存のビジネススキームでは物流市場への展開は難しいと判断し、新たな事業展開を模索することになりました。
――その後、どのように事業ドメインを転換していくのでしょうか。
玉井 ー 物流業界の中にも多種多様な業態があり、置かれている状況や考え方も異なるということがわかってきた中で、私たちとしても、個々の企業の根本的な課題を把握しないことには、物流企業各社に真に求められるサービスをつくることはできないと考えました。
ちょうどその頃、働き方改革関連法が2024年4月に施行されることによる「2024年問題」がクローズアップされ始め、物流企業の多くではさらなる人材調達の必要に迫られていました。一方で、原油高・労務費の高騰などが収益を圧迫し、生産性向上を迫られる構造が浮き彫りになってきました。
そこで、これまでの「倉庫×派遣」という特定の課題にフォーカスした事業ドメインから、物流業界全体へと視野を広げ、採用、配置、育成、評価、労務などHR領域の課題を総合支援する採用・人事コンサルティングへと、事業ドメインを転換することを決断しました。言い換えると、「倉庫×派遣」から「物流×人的資源活用」への転換です。
これに合わせて、「物流×人的資源活用」という事業ドメインを想起しやすいよう、2023年1月に社名を「ロジHR」に変更しました。
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コンサルティングの強みは「ビッグデータ」と「現場主義」
玉井 ー お話ししたように、ツナググループの強みは「データ」にあります。事業を通じた求人掲載データと応募受付データ、さらには求人ごとの応募者数や、応募から面接、採用にいたったコンバージョン率(CVR)、1人の採用にかかった単価などといった膨大なデータを保有しています。
これらのビッグデータを解析し、採用の各プロセスにおける主要な指標を平均化すると、業界における「基準値」が算出されます。その基準値と、クライアント企業との数字を比較することで、基準値とのギャップが可視化され、採用における課題が浮き彫りになります。
―― いわば健康診断のように、平均値とのギャップから「異常値」を発見することで、解決すべき課題を特定し、適切なソリューションへとつなげるのですね。
玉井 ー データの活用に加えて、現場と適切なコミュニケーションや関係性を構築するのも、当社のコンサルティングの大きな特徴です。
これも後々にわかってきたことですが、物流業界全体に共通する特性として、倉庫などを運営する現場の権限が強く、採用も現場主導で実施している企業が多いことが挙げられます。それこそ100人の派遣スタッフを300日間雇用するために数億円規模の予算を決裁する、それだけのパワーを現場の社員は持っています。
いくらデータドリブンで課題を発見し、数字をもって指摘したところで、現場には現場の事情がありますし、彼らの理解と支持を得られなければ何も変わりません。したがって、ただ数字を示すだけでなく、現場に赴いて社員とフラットな目線でコミュニケーションを図りながら、彼らの意見をもとにソリューションを立案、実行することに重きを置いています。
―― データにもとづいて課題を示したうえで、その解決に向けて、ハンズオンで現場と一緒に施策を実行していく、という姿勢ですね。
玉井 ー こと物流業界においては、そこまで踏み込まないと本質的な課題解決につながらないということが、私も多くの物流企業の方と対話をする中でわかってきたのです。現場への理解があって、はじめて当社の強みであるデータドリブンのコンサルティングが活かされると考えています。また、本社・経営層と現場とではコミュニケーションに齟齬が生まれやすいのですが、データがその両者をつなぐ共通言語となってベクトルを合わせる役割を果たすのです。
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年々減少していた従業員数が30年ぶりの純増に!
―― そのロジHRの採用・人事コンサルティングについて、具体的な事例をお聞かせください。
玉井 ー 埼玉県内に本社を持つ「株式会社流通サービス」の事例をご紹介します。同社は全国に30を超える物流センター・営業拠点を持ち、5000人規模のスタッフが勤務しています。
同社では複数の物流センターで労務費が急騰しており、収益を圧迫していました。経営層から収益改善を指示されたものの、現場の社員はどこから着手すればよいかわからない、という状況がありました。
当社で調査・分析を進めたところ、経営層の指摘どおり、時間当たり労務費(総労務費÷総労働時間)が大幅に上昇していました。さらに従業員を「社員・アルバイト」と「派遣・スポットアルバイト」に分解してみると、前者が微増なのに対し、後者が急増していることがわかりました。
原因を深掘りするために現場社員にヒアリングしてみると、当初は波動対応のために派遣・スポットアルバイトを活用していたのが、社員・アルバイトの離職に伴い、その穴を埋めるために派遣・スポットアルバイトを追加利用するようになり、結果として比率が上昇していた、という事情が見えてきました。さらに、派遣・スポットアルバイトの比率が高まった結果、作業習熟度の低いスタッフが増え、同じ物量に対する必要人数が増えている現状も明らかになりました。
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―― 派遣・スポットアルバイトで穴埋めすることが常態化した結果、生産性も低下し、さらに社員・アルバイトの離職を招く、という悪循環ですね。
玉井 ー ただ、「派遣・スポットアルバイト=悪」という単純な話で片づけるのは本質的な解決になりません。大事なのは物量のボラティリティ(変動の度合い)に応じて派遣・スポットアルバイトを適切に活用するという「あるべき姿」を共有することです。そこの目線を本社と現場とで合わせながら、次のソリューションを立案・実行していきました。
① 改善すべき収益率・額の設定と期限の設定
② 物流波動の把握と適性人員(固定費人員と変動費人員)の算出
③ 適性人員時の収益率・額のシミュレーションと改善額の算出
④ 固定費人員の採用条件を競合と比較
⑤ 競合優位性が低い場合、③の改善額を原資に条件の見直し
⑥ 募集活動の設計と実施
⑦ 固定人員の育成マニュアルの見直し
⑧ ①の設定を目標に進捗を検証→改善施策の実施
これらの施策を実施していった結果、半年程度で、当初に設定した収益率と収益額の目標値を達成することができました。年々減っていた従業員数も、今年は実に30年ぶりに純増したそうです。
クライアント企業の声
株式会社流通サービス
取締役 管理本部長
富田 佳宏 様
当社ではコロナ禍が明けるとともに、人材採用の難易度が急激に高まり、自社のノウハウやリソースだけでは限界を感じていました。他にも採用・人事の課題は山積しており、優先順位をつけながら解決に導いていく、トータル的な知見をもったパートナーを求めていました。
その中でロジHRをパートナーに選んだのは、初回の打ち合わせ時から当社の状況を深く理解し、解決策を迅速に、かつ実現性を感じられるレベルでご提案いただけた点です。当社に寄り添って一緒に考えてくれるスタンスも、決め手の一つとなりました。
ロジHRのコンサルティングは、徹底した現状分析・アセスメントからスタートしました。また、定量情報だけでなく数多くのスタッフからのインタビューといった定性情報ももとに、課題が発生するメカニズムまでを明確に分析していただき、具体的な人事・採用戦略の立案・体制づくりの支援をいただきました。
さらに、ロジHRの提案には自社の考察だけではなく第三者からの評価が加わっていたので、非常に説得力の高い戦略策定ができました。実効性を高めるための採用代行業務も依頼することで、採用一元化による採用費削減と効率化を実現できました。
現在では、採用だけでなく離職率の改善など、人事における課題をトータルで支援いただいています。
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完全無料の求人サイト「ロジリク」
―― ロジHRのもう一つのサービス「Logi REC(ロジリク)」の概要や特徴についてもお聞かせください。
玉井 ー 2023年7月にローンチしたロジリクは、日本最大級の物流業界に特化した求人サイトです。約50社の企業様にご登録いただいております。(2024年2月時点)
最大の特徴は、掲載料はもちろん、採用後のフィーの支払いもない「完全無料」でご利用いただける、ということです。
―― 完全無料ですか! なぜ無料にしたのですか?
玉井 ー 2024年問題に直面し、採用に課題を抱えている物流企業の多くは中小企業です。物流企業の採用の課題解決に寄与していくのがミッションである当社としては、採用に困っている中小企業からは料金を受け取らないという判断をしました。
むしろ、このロジリクを多くの企業に利用していただくことで、ロジHRの名前を知っていただける、そのマーケティングコストだと割り切って無料でサービスを開放しています。
―― このロジリクですが、今後はどのような事業展開を予定していますか。
玉井 ー 現在は最も多くの企業が直面する課題である「求人」からサービスをスタートしていますが、今後は物流業界における採用・人事領域全般へと機能を拡張していく予定です。
具体的には、求人募集・応募受付の管理画面から申込ができる仕様の実装や、急な派遣手配・スポットアルバイト募集機能、物流管理者向けの教育コンテンツ配信、外国人採用に特化した求人、人事・採用の相談ができるコンシェルジュ機能、などを検討しています。
これらの機能を順次実装しながら、物流業界に特化した採用・人事領域全般における困りごとに応えていくプラットフォームとして、コンサルティング事業と並ぶ柱に成長させていきたいですね。
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本質的な課題は「人材の定着化」と「生産性の向上」
―― 物流業界における人手不足の状況は、長期化していくものと思われます。ロジHRとして、今後はどのようなソリューションを提供していくとお考えですか。
玉井 ー 採用面の課題解決に加えて、今後は人材を留まらせる魅力づくり、そして物流企業の生産性を引き上げることの2点にフォーカスを当てていきたいですね。
コンサルティングの形でさまざまな物流企業と接し、対話する中で見えてきたのですが、本質的な課題は採用以前に、人材が定着しにくいところにあるのではないか、と考えています。
その定着化しにくい要因として、物流業界においては採用した人材を育成したり、適正に評価したり、キャリアパスを構築するといった考えや制度を持っていない企業が残念ながら少なくないことが挙げられます。
誤解のないように言うと、それが間違っているというつもりはありません。かつて人口が年々増加していた時代には、人材が出ていったら都度補充できる余裕があったので、物流業界としては人材の定着化を考える必要がありませんでした。
また、物流倉庫などの現場で働く人材のコストは一般的に「原価」ととらえられています。売上のトップラインが決まっている以上、原価を上げられないのは妥当な経営判断ですから、育成や評価にコストと時間をかける発想がないのは無理もありません。
しかし、これから人口減少が加速していくステージでは、採用がますます困難になるのは目に見えています。そこで、採用した人材に対して働きやすい環境を整えるとともに、人材に投資し、価値を高め、定着化していくアプローチの必要性が高まっています。つまり、人材を「原価」から「資本」としてとらえ直す「人的資本経営」の考え方が、物流業界にこそ求められていると思っています。
―― プライム企業をはじめ上場企業には、人的資本の情報開示が義務づけられています。中小企業においても、人的資本経営への取り組みが必要なのでしょうか。
玉井 ー 実は、中小企業こそ人的資本経営に取り組むメリットは大きいと私は思っています。
人的資本経営の項目は「ISO30414」という国際規格で定められていますが、従業員数の多い大企業では数値の改善は一朝一夕にはできません。でも、中小企業なら規模が小さいことと、経営者のオーナーシップが強いので、少し取り組むだけで数値を大きく改善することができます。
この人的資本経営に取り組むことで、「働きがいのある会社」「キャリアアップできる会社」というブランドイメージが加わり、魅力を高め、競争優位性を獲得することができるのです。
人的資本経営を進めていくためにも、生産性の向上は不可欠です。生産性が向上すれば、人材に投資する原資が生み出され、キャリアパスや評価制度の構築に取り組む余裕もできます。
人材を留まらせる魅力づくり、そして物流企業の生産性向上。この本質的な課題に向き合い、変革に取り組む物流企業を、ロジHRとしてもサポートしていきたいですね。
―― 日本においては、物流業界のイメージは必ずしも高くありません。採用という目に見える課題だけでなく、「人」に投資することで物流業界のイメージや魅力を高め、人材の定着化に取り組む物流企業が少しでも増えてほしいですね。本日はありがとうございました!!