2023.01.30
取り組み事例
塚本郵便逓送株式会社 株式会社シーアールイー
【連載】第16弾:「あの会社、いいよ!」と紹介される物流企業に!! ~物流インフラプラットフォームNews~CREの改善支援で富山に第2のBTS倉庫も
こんにちは! シーアールイー(以下CRE) マーケティンググループです。
波乱の2022年が明け、いよいよ2023年に突入しましたね。皆さん、新しい年のビジネス展開に向け、準備は万端であられることと思います。
さて今回のインタビュー第16弾は、本欄で2020年秋に取り上げた塚本郵便逓送株式会社(本社・富山県富山市)のチャレンジに、2年振りのスポットを当てます。というのも、EC物流企業として急成長中だった同社は2021年6月、富山にCREが開発したBTS倉庫を新稼働させたのですが、EC企業の積極的な誘致で同年末には早くも満床に。その後も順調な業容拡大で、早くも第2のBTS倉庫の設置も視野に!という大発展を遂げているからです。
ただしその間、さすがの同社も事業の急拡大に伴う品質や生産性効率の低下などの経営課題に直面したのでした。そこに登場したのが、BTS倉庫の稼働後もずっと伴走していたCREのメンバー。主役の現場を盛り立てる改善アドバイザーとして総合力で支援する体制で、運営改善が着々と進行中なのです。以下にはそのホットな経緯と未来展望をめぐり、塚本雅彦代表取締役COOとCRE戦略推進グループの桧山剛氏に伺っていきます!
総合通販にも顧客を拡大、北陸ピカイチの倉庫環境
この「富山西インター物流倉庫」ができるまで、北陸にEC物流に特化したBTS倉庫は1つもありませんでした。最近でこそ、それに近い施設もできかけているようですが、従来なかったものを作った我々が第1号だと誇らしく思っています。このCRE北陸プロジェクトでEC物流を担えるハードを手に入れ、どう事業展開していこうかと考えました。
従来は限られたスペースで大量出荷していたので仕事を選べず、特定の通販事業者の案件しか受けられませんでした。小物の単品リピート通販など、定期販売の商材を扱う荷主さんをターゲットとし、倉庫の作業性もそこに特化していたんです。 しかし新倉庫の稼働によって物流事業の幅を広げ、総合通販の仕事を取りに行けるようになりました。お陰様で新倉庫は稼働した21年の12月に、半年で満床になりました。早急に満床にするためにも広いスペースを使うお客様を中心に拡大していったんです。その結果、計70社の荷主を誘致でき、約30%が以前になかった総合通販会社の仕事になりました。2年前に月間約20万件だった出荷個数が今では約30万件と、1.5倍に拡大しました。販路も広がり、事業成長ができたと思います。
―― 確か以前はサプリメントなどの健康食品で、梱包厚さ3cmまでの商材が中心だったとお聞きしました。その縛りが解けた、と。
塚本 ー はい。それ以外に、新倉庫は環境面での優位性も大きいことを、改めて実感しています。ECに特化したレイアウトで構築された、北陸で一番新しくキレイな倉庫だと思います。駐車場も広く、2000坪の倉庫で60~70人が働く従業員用のスペースも十分確保しました。だから倉庫として、いや工場を含めても、現場環境は北陸でトップレベルだと思いますね。 もう1つ、絶対負けないのが立地です。北陸自動車道富山西インターから車で1分、荷物の日々の主要な持ち込み先である日本郵便の主幹店にも1分、佐川急便の拠点には10分、ヤマト運輸の拠点にも15分という交通至便な場所にあるからです。また富山県庁まで20分なので、市街に住む従業員さんも20~30分で来られます。働く環境も、物流拠点としての立地も、そしてレイアウトも……ハード面では申し分ない優位性を備えた倉庫だと、自信を持って言えます。
問題改善に「KAGAYAKI」チーム、CREが改善アドバイザーに
―― しかし短期間に事業を拡大するとなると、ついていく現場も大変でしょうね。
塚本 ー ええ、拡大の中では経営課題も顕在化してきました。総合通販の業務が増えて一気に扱い商材の種類が増え、限られた単品商材の現場ノウハウでは足りなくなって労務費率が上がり、品質も低下してしまったことです。同じ陸上競技でも、短距離走と棒高跳びではノウハウが違いますよね。マルチ対応は簡単には行かないんだ、ということが分かって来たんです。
―― 商材のサイズや特性の違いで、作業ノウハウも変りますものね……。
塚本 ー 環境の整ったハードはできた。あとは運営ほか中身のソフトをどう素晴らしいものにしていくかが課題でした。お客様が求めるよりよいサービスを提供するためには、品質を高めるルール作りとか、運営の仕組みとか、やることは一杯あります。初めは自分たちで試行錯誤して半年くらい、改善プロジェクトを進めていました。しかしそう簡単には行きません。そんな時、稼働後もあれこれ相談相手になってくれていたCREの営業の方から、提案を受けたんです。CREの物流インフラプラットフォーム(=LIP)として、物流の経営改善・現場改善をさらに深める支援を行える、とのお話でした。 初めはそのイメージがつかめず、しばらくの間あれこれとやり取りを続けていました。その結果、戦略推進グループの桧山さんがアドバイスしてくれることになり、まずは今の課題は何なのか、取引先のお客様と仕事の内容や現場業務などの分析から始めることにしました。
桧山 ー CREのグループ会社の株式会社ストラソルアーキテクトに、現在の経営・業務実態を調べてもらいました。急成長ゆえに業務が複雑化し、課題が見えづらくなっていたのを明確化しようと思ったんです。
塚本 ー そうして現在の課題を見つけてもらい、互いにすり合わせるなか、夏くらい(2022年)に進めるべき方向性で一致できた。それを踏まえて、塚本の施策として明確に落とし込み、まずは3か月をかけて課題を1つずつ潰していくことを決めました。社内で7名ほどのメンバーを募って、私がプロジェクトオーナーに、桧山さんがアドバイザーになる体制も整え、こうして2023年1月までの3か月短期プロジェクト、「KAGAYAKI」を発足させたんです。
―― へえ、「KAGAYAKI」ですか!
塚本 ー はい、お察しの通り、北陸新幹線のイメージもあります。でも何より「輝いている倉庫になりたい!」との思いを込めたんです。このプロジェクト名を考えたのは私ではなく、チームのリーダーです。それも外面の格好だけではなく、内側の中身も輝いている、キラキラした、カッコいい、要するに「モテる倉庫」にしたい、と……。
例えばお客様が来られた時に、そう感じてもらいたいわけです。できたばかりの新倉庫であるのに加え、まずは5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)を励行し、もちろん作業や運営も整えることで、「何てキレイな倉庫なんだ!」と感動してもらえる現場にしたいと考えています。
―― 具体的にはたとえば、どんなことに取り組んでいるんですか?
塚本 ー そうですね、「ビブス(着る人の役割や所属が一目で分かる色分けベスト)の色決め」なんかが分かりやすいですね。役職別とか新人さんなど、誰が誰なのか一目で分かるようにしたので、何か聞きたいときにはリーダーに聞くとか、新人さんにはみんなで優しくするとか、適切に対応できるようになりました。それと、バラバラだった看板や表示物など、フォントもサイズも揃えて標準化しました。やはり揃うとキレイなんです。
私自身も、当初から「倉庫内のすべてのものに住所があるんだ」、と教えてきました。道具や機材などを使ったらそのつど「住所=定位置」に戻す、という最低限のルールを決めて運用してきました。でもそれらを含め、改めて全員に「腹落ち」させないと浸透しない。実はLIPが作ってくれた施策一覧には、到達すべきゴールだけでなく、その過程の改善ステップまで、倉庫運営に一番大切なベースとなるポイントを50項目くらい書き出してくれたんです(図表1)。「ああ、そこまでは考えてなかったな」と感心して、そこから具体的に話が進み出しました。こうした倉庫全体の改善は簡単には進まないものですが、「あ、これならうまく行くな」と直感しました。 ただし実際に改善を進める過程はお任せするのではなく、あくまでも塚本のプロジェクトチームが主導します。そこにCREさんのアドバイスをもらいながら、進める体制にしています。
桧山 ー ご提案した項目は、現場の視察とオペレータさんやスタッフさんとのヒアリングで課題を吸い上げてまとめました。70社ものお客様の多様な業務を受託したことで業務が複雑化していたので、一足飛びの改善はできないと判断し、ムダ・ムラ・ムリの排除とかの基本の徹底や細かいルールを決めるところから始めることにしました。みながそれを意識して作業に当たることで、「そうか、会社はこういうことをやろうとしているんだ」と腹落ちし、新しい人にも波及させていける。結果的に従業員の定着率が高まり、品質も上がることにつながるはずです。
私は30年間、物流一本でやって来た人間として、社長の思いに心から共鳴しました。「この倉庫スゴイな」と思ってもらえる、ものマネではない塚本カラーを出していく……そのためには、携わる方みんなが「塚本はこういう企業になろうとしているんだ」という目的感、モチベーションを共有することが大事だと思うんです。
ただし私はコンサルタントではなく、改善は内製で主体であるプロジェクトチームが進める。私はアドバイザーとして助言する立場。自発性、当事者意識が何より大事と考えるからです。
サービス品質を高め、新規荷主を紹介してもらえる倉庫に
―― さて、こうして改善が進捗するさなか(取材日はプロジェクト真っただ中の22年11月下旬)ですが、今後の方向性、LIPとの連携拡大についてのお考えはありますか。
CREさんのLIPにはそれを見据えて、今後も伴走してほしいと思っています。たとえばスペース効率を上げるため、ネスティングパレットを使って高積みで保管効率を高めれば、固定費が安くなります。自動化機械などの導入で作業効率を高め、コストを圧縮するのも1つの手段でしょう。そんなご提案を積極化するほかにも、今は土曜も営業していますが日曜・祝日も稼働することでサービスレベルをさらに上げるとか……荷主企業に塚本ならではのサービス品質をお届けすることで、「塚本にはずっといてもいいな」「知り合いにも奨めようかな」と言ってもらえるようになりたい。塚本としてリファラルマーケティングでの顧客獲得の拡大を目指すための伴走、後押しをCREさんにお願いできればと思います。仕事を取ると言っても安売りするつもりはなく、質で勝負したい。そうなれば我々からも、「シーアールイーは倉庫提案やオペレーションの改善提案などの物流に関わることをトータルで任せられていいよ」と仲間に紹介できますからね。
―― なるほど、機材や設備を使って生産性を高めるなど、塚本ならではの工夫・提案で顧客満足度を高めていく、というわけですね。
2棟目のBTS立ち上げに向け、運営の標準化を
繰り返しますが、まずは「(荷主から荷主に)紹介してもらえる倉庫」「見に行きたいと思わせる倉庫」にしていくことを目指します。「行きたくなる」ためには何かの材料が必要で、キレイで便利で生産性が高いことに加え、目玉になる自動化機器、たとえばすでに導入している自動梱包機の拡充を予定しています。現在はポストインに特化した自動梱包機を2台入れていて、小さなポストインサイズの郵便物では富山県一の出荷数を誇っています。次は60サイズに進み、コンパクトと60サイズの両方に対応可能とする計画です。将来的には物流ロボットの導入も検討したいと思っています。
物流観点からは外れるんですが、富山の立山のふもとに22年5月にオープンしたサウナ付き宿泊施設「The Hive」(ハイブとは「蜂の巣」の意味)へ企画から携わり出資しています。ミシュランのサウナ版である「サウナシュラン」では富山県で10位に格付けされています。一棟貸し切り方式の土の中のホテルにサウナを融合させ、サウナから雄大な富山連邦が眺められるんです。「行きたい倉庫」にする施策の一環として、「倉庫を見て、立山のサウナに泊まる」というプランでお誘いしたところ、何組もの方が喜んで参加してくれました。
結論としては、「北陸にBTS倉庫(BTS-2)をもう1棟」建てられるような事業拡大を果たすことが、当面の最大の目標です。最短で2023年中、1年以内にできればいいなと…。
桧山 ー それはもう、全力でお手伝いします! そのためにも作業や運営の標準化が必須だと思うんです。基本となる塚本郵便逓送ならではの運営ルールや作業方法など。それができればシャトル自動倉庫の導入なども可能になるはずです。
執筆者 菊田 一郎 氏 ご紹介
1982年、名古屋大学経済学部卒業。物流専門出版社に37年勤務し月刊誌編集長、代表取締役社長、関連団体理事等を兼務歴任。2020年6月に独立し現職。物流、サプライチェーン・ロジスティクス分野のデジタル化・自動化、SDGs/ESG対応等のテーマにフォーカスした著述、取材、講演、アドバイザリー業務等を展開中。17年6月より㈱大田花き 社外取締役、20年6月より㈱日本海事新聞社 顧問、同年後期より流通経済大学非常勤講師。21年1月よりハコベル㈱顧問。
著書に「先進事例に学ぶ ロジスティクスが会社を変える」(白桃書房、共著)、ビジネス・キャリア検定試験標準テキスト「ロジスティクス・オペレーション3級」(中央職業能力開発協会、11年・17年改訂版、共著)など。