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物流MaaSとは|業界の未来を変える新ソリューション

物流MaaSの取り組みは2021年以前も行われていましたが、2021年7月26日、物流MaaSの実証事業の事業者に7社を選定したと経済産業省が発表しました。今後も物流MaaSが注目されることが予想されています。

本記事では物流MaaSはどのような取り組みなのか、導入までにどんな課題があるのかなどをご紹介します。

1. 物流MaaSとは

物流MaaSとは、物流業界における課題解決に向けて経済産業省から発表された取り組みです。人手不足・環境にやさしい取り組みの実現・デジタル化など物流業界の課題への解決策として提示されています。新しいモビリティサービスである「物流MaaS(Mobility As A Service)」とは、いったいどのような取り組みなのかご紹介します。

1.1 そもそもMaaSとは

MaaS(Mobility As A Service)とは、直訳すれば「サービスとしてのモビリティ」となります。国土交通省によると「ICTを活用して交通をクラウド化し、マイカー以外のすべての交通手段を1つのサービスとして捉え、シームレスにつながる新たな移動の概念」とされています。

2015年に開催されたITS会議においては、「さまざまな種類の交通サービスを需要に応じて利用できるように1つの移動サービスに統合すること」と定義されました。利用者はスマートフォンのアプリなどを用いて交通手段の選定やルート検索、運賃などの決済を行うケースが多くあります。MaaSは環境対策や産業振興、交通改革などを目的として作られたとされています。発達中のサービスで欧州やEUを中心に導入されており、日本でも実証実験が進んでいます。

物流MaaSは、主に3段階の実現像が示唆されています。経済産業省がまとめている実現像は以下の通りです。

幹線輸送

車両の大型化や自動化により、トラック1台あたりの輸送量を飛躍的に増大させるシステムです。国内外での取り組み事例は「ダブル連結トラック」や「隊列走行」が挙げられています。荷台部分を2台連結させたダブル連結トラックは1回あたりの輸送量増加が見込めます。

隊列走行は夜間走行の方が安定する傾向にあるとの示唆が得られています。現在、商業化を見据えた取り組みが進んでいます。さらに求車・求貨システムを導入することで、実車率の上昇が期待できます。国内では求貨・求車のマッチングサービスがあり、荷主企業と一般消費者と運送事業者のマッチングなどが行われています。

結節点

結節点では物流情報とインフラ側の情報が連携することで、スムーズな荷受けなどを可能にする取り組みです。IoTの進展などにより倉庫や物流結節点と輸配送手段が共有されることで、最適ルートを使っての輸配送が可能になります。

国内でも、トラックバース予約システムを使った事前予約制を用いることにより、ドライバーの待ち時間削減や倉庫内作業効率化を図る取り組みがされています。さらにトラックの運行状況をリアルタイムで作業現場と共有することで、作業状況との兼ね合いを考えた最適なプランが自動で割り当てられます。

支線配送

域内から末端まで電動商用車などを活用することにより、環境や労働環境の改善を図ろうとする取り組みです。国内外ではESG投資などの流れを受けることで、荷主・運送事業者・小売事業者などでは電動トラックの実験的投入が行われています。また電動車普及のため、国として電動化対応トラック導入の際に助成金をつけるなどの取り組みも行われています。

共通の取り組み

さらに共通の取り組みとして、「安全性の向上」や「ドライバーにやさしい車づくり」の取り組みも行われています。搭載された機器によって収集されたトラックの走行データやドライブレコーダー等の映像データとドライバーの生態情報を分析することにより、リアルタイムで安全運航管理を行うという仕組みづくりが進められています。また、女性や小柄な人物でも働きやすいように、運転しやすさ、作業のしやすさに配慮した車づくりが進められています。

1.2 実証試験が進んでいる段階

物流MaaSは2019年度より日本でも実証事業が実施されています。2019年度は有識者や商用車メーカー、運送事業者、ITソリューション事業者などの民間事業などが参加し、物流MaaSの勉強会が開催されました。そして2021年に商用車業界としての取り組みとして方向性が取りまとめられました。2020年の実証事業の成果を活かし、さらに先進的な実証事業が実施されるとしています。具体的に、以下の実証事業が実施されるようです。

見える化・自動化などによる輸配送の効率化

積載率の向上を目指し、荷姿標準化の効果が検証されます。また将来の自動クロスドックの運用に向けて、自動荷役技術の企画や課題の抽出が行われます。さらに安全で効率的な配送のため、油圧センサーユニットを車両に装着することで、装備の見える化が検証されます。さらに、保険会社などと連携することで、整備・運行記録などを分析したモデルの構築が行われます。

電動商用車の活用

交換式バッテリーで走行するEVバスの運行を目指し、運行管理とエネルギー管理を一体化して実施するコンセプト検証が行われます。まずは地方部の路線バスが対象となりました。

また支線配送業務向けに設計された小型電動車が、宅配業務において実際に運用されました。これにより小型電動車の課題やニーズ、望まれている運用システム、必要な設備のあり方などの課題やメリットなどが検証されます。その後、複数の交通事業者や地元の事業者が連携し、自動運転EVを活用した運送サービス提供時の課題を整理するため、運用性が検証されるとしています。

出典:経済産業省「物流分野におけるモビリティサービス(物流MaaS)勉強会とりまとめ説明資料」

出典:国土交通省「MaaS (モビリティ・アズ・ア・サービス) について)」

2. 物流MaaSの実証テスト内容

経済産業省が中心となって行っている、物流MaaSの推進に向けての実証テスト内容は主に以下の3つです。

2.1 トラックデータ連係

2020年度における実証事業では、トラックデータ連係の仕組みが確立されました。他の物流効率化システムとの連携も考え、日本版のFMSコネクタが利用されています。さらに複数のOEMトラックの車両データを収集することによって、運行可能な仕組みが確立し、これに基づく統合運行管理の運用が検証されました。

これまではOEMごとに車両からの情報がバラバラだったため、複数OEM車両の一元的な運航管理が難しかったのです。加えて帰り荷が担保されないため、実車率が上がっていませんでした。

トラックデータ連係の仕組みが確立されたことで、協調領域でスモールスタートできる方向性として、人手不足対応や安全性向上のための有益なユースケースとして確認されました。このユースケースをもとに2021年度から連係可能なデータをさらに特定し、危険運転の挙動をプロットするハザードマップを作るための調査が実施されます。

2.2 位置・積載情報の可視化

トラックの荷台内にセンサーなどを設置することにより、位置や積載情報を可視化できることが確認されました。専用端末を利用することで、工場の出荷から顧客までに位置情報を把握し、積載効率の向上が可能になりました。

これまではトラックごとの作業状況や積み荷情報、倉庫・拠点稼働状況がリアルタイムで把握できていなかったため、効率的な運用ができませんでした。さらに、各サービス間のデータ連係がされていなかったため、複数のサービスを利用する手間があったのです。データを一括管理し、複数荷主・運送事業者による混載の取り組みが実施されることで、ドライバーの働きやすさ向上や平均積載率改善が期待できます。また、これまで顕在化していなかった共同配送のニーズ発掘やマッチングにつながることが期待されています。

荷台データ使用や活用方法が標準化されることにより、商用車OEM分野の研究開発投資の効率化なども考えられています。

2.3 電気商用車の活用

支線物流における電動商用車の活用を見据えて、電動車の特性を踏まえたオペレーションとエネルギーマネジメントの最適化検証が行われました。導入は、航続距離を考えたルート設計やコスト計算など電動車に適した運用方法を知らなくてはいません。また発着地点の配送状況や需要の把握などができていないと、導入に踏み切ることは難しいでしょう。

この検証で電気商用車の経済性の検証や普及拡大を主として行われました。まず軽貨物EVが独自に開発され、ガソリン車との性能比較がされます。さらに性能だけでなく車両価格や充電器設定費用など、導入コストやランニングコストを踏まえた経済性の分析も実施されました。

さらに、EV普及と充電器のインフラ整備が一体的に進めるためのモデルエリアを構築されたようです。共同利用型の急速充電オペレーションモデルなどを検証することで、どれだけ成立する可能性があるのかが確認されます。そしてEVバス運行のためのオペレーション転換を可能とするエネマシステムの構築における課題の解説策が整理されました。

加えてディーゼルバスとEVバスは、給油・充電時間・運行管理などの面でどのように違いがあるのかなども検証されています。バスの運行管理とエネルギー管理を一体化した技術検証を行うことで、EVバスの地方でのモデル構築を目標としています。

出典:経済産業省「物流分野におけるモビリティサービス(物流MaaS)勉強会とりまとめ説明資料」

出典:経済産業省「動き出すぞ「物流MaaS」!」

3. 物流MaaSに立ちはだかる課題

物流MaaSは物流業界が抱える人手不足や長時間労働などの問題を解決するための手段として注目されています。一方で、物流MaaSは課題も多くあるとされています。ここでは物流MaaS導入に関わる課題についてご紹介します。

3.1 活用方法が不透明

物流MaaSの課題の1つに「活用方法が不透明」な点が挙げられます。

経済産業省の資料では、広範囲な適用方法が記載されていますが、様々な取り組みがありすぎて物流業界にどう活用されるのかまでは不透明です。また、まだ地方部や限られたエリアのみでも実証実験しか行われていないため、実際の配送にどう活用されるのかがイメージしにくい点もあります。

「物流MaaSを導入することでどのようにドライバー不足が解消できるのか」「具体的にどの時期から効果が実感できるのか」などがわかりにくいという問題もありました。

経済産業省の資料によると、今後はどのトラックデータを連係するのか、どう規格化するのかなどの効果検証を早期に着手すべであるとしています。また、納期条件などに柔軟に対応できるように、物流業界や異業種間などのさまざまな条件において混載の取り組み推進の枠組みの準備も進んでいます。今後も着手できるところから具体的に行い、効果検証を重ねる段階としています。

3.2 実装までに時間がかかる

実際に物流業界に実装・浸透するまでに、まだまだ時間がかかると考えられています。2021年度現在、まだ限られた条件下での実証実験しか行われていないため、実際の物流業界に導入されるのがいつごろになるのかは全く発表されていません。さらに現在の発表は地方での実証実験が多いため、人口密集地でどれだけ効果を上げられるかはさらに不透明でしょう。

物流業界の課題はすでに表面化していることもあり、実装まで時間がかかるのであれば他の手段を用いて解決に動かなくてはいけない企業もあるでしょう。そのため、「どのくらいの効果が期待できるのか」「どの程度の時間がかかるのか」が注目されているのです。

4. まとめ

物流MaaSは、物流業界の課題を解決に導く方法として経済産業省が力を入れている取り組みです。2021年度ではまだまだ実証実験段階にあるため、実際の物流業界においてどの程度活用できるのか、どの程度の効果があるのか不透明な点もあります。

経済産業省は今後も物流MaaSの取り組みを通じて、物流業界の課題解決に貢献するとしています。官民一体で進められている取り組みであり、今後も随時効果や結果などが公表されることが予想されるため、物流業界の企業は物流MaaSの今後について注目しておくべきです。

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