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物流DXの概念や課題について|生産性向上に必要なこととは?

人材不足や長時間労働など、物流業界はさまざまな課題に直面しています。限られた人員でやりくりするためにも、今後は一層の業務効率化・生産性向上が求められますが、それらの解決手段として注目を集めているのが物流DXです。物流に関する業務全般のDXを推進することで、労働環境の改善や業務効率化が期待できます。

本記事では、物流DXの概要や解決が期待される課題、取り組むうえでの問題について解説します。

1. 物流DXとは

人材不足をはじめ、物流業界の課題解決の一助となりうる物流DXですが、言葉を初めて聞いた方も少なくないでしょう。

1.1 そもそもDXとは

DXとは、デジタル・トランスフォーメーションの略称で、さまざまなデジタル技術を使用し、生活やビジネスを変化させることをいいます。2000年代から唱えられており、ITの進化・浸透によって、生活をより良い方向へ変化させるものとされています。

日本では、2018年に経済産業省がDX推進のためのガイドラインを策定しました。DX化を推進するための経営のあり方・仕組みのほか、体制の構築方法やプロセスをまとめています。

参考:デジタル・トランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(DX推進ガイドライン)を取りまとめました (METI/経済産業省)

DXを推進するためには、自社の商品・サービスを変えるだけではなく、企業の考え方そのものを変える必要があります。物流業界に関しては、単なるオートメーション化に留まらず、作業員や現場の意識改革も含めた対応が求められます。

なお、DXとIoTは似て非なるものです。IoTはインターネットを活用し、人と製品(もの)をやり取りするための仕組みである一方、DXはIoTやAIを使い、生活やビジネスに変革を起こす取り組みを指します。そのため、IoTなどの技術を活用したものがDXといえます。

1.2 物流DXについて

デジタル技術によってビジネスや生活をよりよい方向に変化させるのがDXですが、物流DXは、デジタル技術を使って物流の仕組みを変化させることを指します。

昨今の物流業界は、以下のような課題を抱えています。

・配送ドライバーや倉庫など現場作業員の不足
・人手不足による長時間労働
・EC(通信販売)利用増による業務複雑化と負担の増加
・EC利用増にともなう配送の迅速化

ほかにも挙げるとキリがありませんが、その多くは早急な対処が求められます。一朝一夕で解決できる課題ばかりではないですが、解決の一助になりうるのが物流DXです。

物流の一連のプロセスをデジタル化することで、物流業界が抱える諸問題を解決できる可能性があります。完全な解決まで至らなくとも、ドライバーや現場作業員らの負担軽減につながる場合もあるのです。

物流業界に関しては、国土交通省が物流DX及び物流標準化を推進しています。令和3年6月には、総合物流施策大綱(2021年度~2025年度)が閣議決定され、物流業界の今後を話し合うための官民物流標準化懇談会が設置されました。

参考:物流:物流標準化 – 国土交通省

物流DXの推進と合わせ、ソフト・ハード面の標準化にも取り組んでおり今後の動向に注目です。

2. 物流DXで解決できる課題

物流DXによって解決できる課題はさまざまあります。この章では、物流のデジタル化で解決が可能な課題について、具体的な取り組み手段などを交えて解説します。

2.1 作業員やドライバーの人員不足

物流DXによって、解決が期待される課題の一つが人員不足です。配送ドライバーや倉庫などの作業員不足を、物流DXを推進することで解決に繋がるでしょう。

具体的には、以下のような施策を行うことで、人員不足の課題を解消できます。

・運行管理システムの導入による配送ルートの適正化
・AIを活用した勤務状況の見える化・最適化
・ロボットを活用した作業の自動化
・自律走行型搬送車(AGVやAMR)の導入

このようなテクノロジーを組み合わせることで、作業員・ドライバーの負担が軽減されます。単純に人材を増やすわけではないため、人的なリソースに変化はありません。しかし、人手不足解消と人材雇用を結びつけてしまうと、いつまでも問題を解決できないでしょう。

物流DXは、テクノロジーを駆使した自動化・効率化に主軸が置かれています。自動化によって作業員の業務負担が減り、運行ルートの最適化で配送時間の短縮が実現できることから、一人あたりの生産性が向上し、人員が足りない現場でも、少ない人数で最大限のパフォーマンスが出せるようになります。

2.2 負担が大きい作業

物流DXによって、重労働の負担軽減も期待されます。

例えば、搬入や搬出、ピッキングなどの庫内作業は、スピード度と正確性が求められる一方で、作業員に大きな負担が生じます。その負担を軽減するため、人手を増やすことが従来の考え方でしたが、現在ならデジタル技術の活用も候補に入ります。

具体的には、ハンディターミナルを活用した商品管理システムの構築やAGVの導入などです。これらを導入することで、搬入・搬出などの作業を一部オートメーション化できるほか、商品の在庫管理が容易になり、ピッキング作業の効率も高まります。作業が簡略化されることにより、ヒューマンエラーの減少も期待できます。

他社とのシステムやデータ連携を行えば、さらなる生産性の向上を実現可能です。一例ですが、EC事業者の受発注システム・データと連携した場合、倉庫側で注文情報を確認できるため、スピーディな発送業務を実現できます。在庫数量も連係すれば、作業員による在庫の確認作業を行う必要はなくなります。

庫内作業に関わらず、導入するデジタル技術次第では輸送・運送・配送業務負担も軽減可能です。

例えば、GPSでトラックの位置情報を把握するシステムを構築すれば、配送状況の問い合わせにも即時対応できます。アイデア次第では、ほかにもさまざまな業務の負担を軽減できるでしょう。

2.3 長時間労働

物流DXへ取り組むことで、長時間労働も解消できます。前述したシステム構築や自動化も重要ですが、デジタル技術を駆使し、作業員・ドライバーの勤務状況を把握、見える化することも解決策となります。また、運送ドライバーに関しては、2024年施行予定の働き方改革関連法により、時間外労働時間の規制が入ることから、今まで以上に効率よく配送することが求められます。

勤務状況の把握は、生産性の向上に欠かせない要素です。労働時間や業務の無駄を発見し、適切な対処をとることで、労働環境の改善につながります。得られたデータを人事評価に活用すれば、社員らの労働意欲アップも期待できるでしょう。また、AIを活用することで長時間労働の是正が可能です。

例えば、AIが物流量の変動や、最適な人材の配置を予測することで、人手を介さずに最適なシフトを作成可能になります。シフトの作成担当者や、現場監督者の負担が軽減されるほか、各作業員の生産性向上を実現できます。人的リソースに余裕が生まれることで、人件費の削減も可能になるでしょう。

2.4 急な配送依頼への対応

物流のDX化が実現すると急な配送依頼にも柔軟な対応が可能になります。EC拡大による小口配送の急増にともない、急な配送依頼も増加しており、ドライバーや作業員への負担は計り知れません。負担軽減策の導入は急務といえますが、その解決策の一つとして挙げられるのが物流DXです。

これまでに述べた商品管理システムや運行管理システムの導入、ロボット活用による庫内作業の効率化など、さまざまな技術を組み合わせる必要はあります。しかし、これらの技術を組み合わせると、在庫をすぐに確認できるうえ、効率的なルートでの配送が実現できます。無駄がなくなるため、速やかに顧客の手元へ品物を届けられるでしょう。

ECの利用者増加や競争激化により、物流業界の負担も増加傾向にあります。今後も急な配送依頼が減るとは考えにくいため、物流DXへの取り組みは必要不可欠といえるでしょう。

3. 物流DXに取り組むうえでの課題

物流業界が抱える問題を一挙に解決できる物流DXですが、取り組むためにはいくつかのハードルを乗り越えなくてはいけません。ここでは物流DXに取り組む上での課題・問題について解説します。

3.1 現場のITリテラシー不足

物流DXを進めるうえで、現場のITリテラシー不足が課題となります。物流DXは、AIを始めとするデジタル技術を導入し、これまでの物流の仕組みを大きく変えることになります。業務のプロセスも変化しますので、現場で働く作業員やドライバーは大きな影響を受けます。

しかし、業務の変化に従業員が戸惑ったり、現場で受け入れられなかったりする可能性も否定できません。物流DXを進めた結果、かえって生産性や業務効率が下がってしまうおそれもあります。急激な変化へついていけず、離職してしまう従業員も出てくるでしょう。

このような事態が起こる原因は、IoTやデジタル技術に対する知識不足です。そのため、物流DXへ取り組むのであれば、現場で働く従業員に丁寧な教育を行い、知識の充実と意識を変化させる施策が求められます。

一気に取り組むのではなく、試験導入から始めることも重要です。現場で働く従業員の意見や評価をフィードバックし、本格導入前に課題を洗い出しましょう。そして課題解決に向けた対策を検討し、導入の是非を判断することが大切です。

3.2 導入費用が大きい

次に、導入コストが大きいことが挙げられます。

例えば、運行管理システムを構築する場合、トラックへのGPS機器の設置や、ソフトウェアの導入などが必要になります。既存のシステムをそのまま流用できるケースも多いですが、規模によってはソフトウェアの大規模な改修や、一から開発・構築することになるでしょう。

庫内作業を効率化するにためには、AGVやハンディターミナルの購入が必要です。しかし、倉庫の規模や従業員の人数によっては、相当数の機材を購入しないといけません。

導入コストは規模に比例しますが、投資できるだけの売上や企業体力が求められます。中小規模の事業者は、コストの問題が大きくのしかかるでしょう。金融機関からの融資や、行政の補助金・助成金を活用するとよいでしょう。

また、費用対効果も見極める必要があります。コスト度外視で取り組むならまだしも、効率化とコスト削減の両立を目指すのであれば、入念なシミュレーションが不可欠です。

物流DX後のビジョン・戦略

物流DX後のビジョンや戦略を明確にすることも重要です。DXは、ビジネスそのものを大きく変化させる可能性を秘めています。今後取り組む際は、自社が抱える問題点を洗い出し、導入後に自社にもたらす変化も考えて取り組むことが重要です。物流DX後のビジョンが曖昧なまま推し進めると、取り組みが滞るばかりか、無駄な投資に終わってしまう危険もあります。

物流DXを進めるのであれば、物流DXを主導し、ビジョンを描ける人材の確保は必須です。現場で変化の影響を受けるドライバーや、作業員の意見をヒアリングし、経営陣とのパイプ役になる人材も欠かせないでしょう。企業側は一方的に推進しても現場の反発を招きかねず、当初の想定どおりにいかなくなる危険があります。

もし物流DX後のビジョンが明確になっていない場合、まずは専任担当者の設置や専門チームの立ち上げから始めるとよいでしょう。

4. 物流DXの生産性UP成功事例

この章では、実際に物流DXへ取り組み、生産性の向上を実現させた成功事例を2つご紹介します。現在DX化を検討中の方、成功事例を確認したい方は、ぜひ参考にしてください。

4.1 複数の物流センターで分散出荷を実現

予約時の大量販売など、ピーク時に複数の物流センターで分散出荷を実現した事例です。

人気キャラクターの新商品の予約販売を開始したところ、通常時の5倍以上もの注文が殺到し、通常商品の出荷と並行しながら大量の予約商品の出荷も行うという非常に難しい事態になりました。

この問題を解決するため、予約販売の倉庫振り分けなど、各拠点から適切に出荷されるよう、段取りの構築・調整を実施しました。その結果、オペレーションの安定化とピーク時の対応に成功しただけでなく、コストの抑制も実現しました。

参考:【はぴロジ導入事例】 シェアリングエコノミー!!予約大量販売ピーク対応に複数物流センター分散出荷の実現 | はぴロジ

4.2 配車から請求書発行までワンストップに

配車管理から請求書の発行まで、さまざまな業務の一気通貫に成功したケースです。もともとはシステム構築に乗り気ではなかったものの、一部の車両で実証実験を行った結果、物流業界の重要な鍵になると考え、正式導入へと至りました。以前は請求書を郵送していたものの、システムを構築したことで、わずか3ヶ月で全ての荷主へ電子請求書を送付できるようになりました。

参考:SmaRyuTruckインタビュー第1弾・株式会社クールトランスポート

5. まとめ

物流業界はさまざまな課題に直面しています。早急な解決が求められる課題も少なくありませんが、物流DXを実現することで、人手不足や労働環境の改善など、業界が抱える課題を解決できる可能性もあります。

ただし、現場のリテラシー不足を始め、取り組むにあたって複数のハードルを乗り越えなくてはいけません。もし物流DX化に取り組むのであれば、主導する人材を配置し、段階的に行うなどの工夫が求められます。

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